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研究内容

再生可能な生物資源すなわちバイオマスを我々人類は十分に有効活用できていません。人間活動により発生する廃棄物バイオマス(食品廃棄物、家畜排せつ物、下水汚泥、製紙工場で発生する黒液、農作物非可食部、水産廃棄物など)や未利用バイオマス(刈草、外来生物、漂着生物など)は、エネルギー・肥料・飼料や付加価値の高いバイオ製品など様々な資源に変換できる可能性を秘めています。環境負荷を低減し、循環型社会を構築するためには、バイオマスの資源化技術の確立が必須です。

当研究室は、微生物の力を利用して廃棄物バイオマスを有価物に変換する環境バイオ技術について研究しています。廃棄物には大量の微生物が付着しているので、このプロセスは必然的に純粋培養系ではなく数百-数千種類もの微生物が複雑に相互作用する複合微生物系となります。複合微生物系の動態は、大半の微生物が難培養性であるため、これまでブラックボックスとして取り扱われてきました。当研究室では、近年発展著しい分子生物学と微生物工学の融合的アプローチでその動態を解き明かすことを試みています。環境バイオ技術をより高速に、より経済的で、より小型に、より使いやすくすることで、循環型社会の構築に貢献することを目指しています。

資源循環生物工学研究室の概要。廃棄物バイオマスを複合微生物系を用いて

長崎を起点に研究できる強み

長崎県は農林水産業が盛んな地域です。特に海面漁業・養殖業生産量及び産出額は、北海道に次いで全国2位です(引用:長崎県水産業振興基本計画2021→2025)。長崎では、農業・漁業事業者と密に連携しながら地域循環型社会の構築に共に取り組むことができます。農業系・漁業系廃棄物バイオマス(家畜排せつ物、残餌、汚泥、その他各種有機固形廃棄物ならびに有機排水)の資源化技術の研究を展開し、その成果を長崎をはじめとする国内外の農林水産業をより環境負荷の少ない持続可能なものにするために役立てたいと考えています。

​これまで実施した研究課題

養殖池汚泥の新規アンモニア発酵

養殖池汚泥から高付加価値藻類を生産する新規アンモニア発酵

​研究成果(査読付き論文)

エビの養殖では、餌や排泄物が汚泥として堆積して水質悪化やエビの病気の原因になるため、処理が必要になります。途上国では、コンポスト化等の従来処理で一定の成果があがっていますが、プロダクトである堆肥が安価であるため利益が上がらず、結果として汚泥の不法投棄が増加しています。そのため、経済的インセンティブの高いシステムの開発が求められています。従来のコンポスト化の研究では、肥料効果を期待して窒素保持の最大化がこの分野では取り組まれてきましたが、窒素はアンモニア揮散や脱窒などで容易に損失してしまうこと、加えて、アンモニアの揮散による悪臭の発生が問題でした。これに対して、私たちは逆の発想で、アンモニアガスの回収を最大化させる新規のアンモニア回収型コンポスト化システム、すなわちアンモニア発酵を提案しました。アンモニアガスは廃棄物/廃水を含まない「クリーンな窒素源」ですので、健康食品の原料となるキロ何十万円もするような高付加価値藻類の生産に利用可能です。さらに、CO2が汚泥の有機物分解の過程で大量に発生しますが、これを藻類の炭素源として供給でき、同時に、発酵残渣すなわちコンポストは土壌改良材として利用することができます。当該分野において、コンポスト化におけるアンモニア回収の最大化の取り組みは新規なアプローチです。本研究では汚泥からのアンモニアの高効率回収に取り組み、アンモニア発酵の促進に適した温度や、微生物を阻害せずにアンモニア揮発を促進する操作、汚泥可溶化を促進する微生物や酵素について明らかにしました。

基質負荷変動に堅牢なメタン発酵

負荷変動に堅牢なメタン発酵

​研究成果(査読付き論文)

メタン発酵は、含水率が高い有機廃棄物を嫌気条件下でエネルギー(メタン)と栄養塩(液肥)に変換する複合微生物系の環境技術です。生ごみなどは日処理量が大きく変動するので、急激な高い有機物負荷、すなわち負荷ショックをメタン発酵装置に与えると、メタン発酵の不安定化や破綻を引き起こしてしまいます。そのため、これまで実規模装置では、過大な安全係数をかけて過剰に大きい装置で低い負荷での運転がされてきました。この大きな負荷ショックに対して、安定なメタン発酵プロセスを構築することができれば、装置の小型化が可能となりますが、「繰り返される負荷ショックにメタン発酵が耐えられるか」や、「メタン発酵微生物を負荷変動(=負荷ショックの繰り返し)に対してレジリエントにできるか」が、これまで明らかになっていませんでした。そこで本研究は有機物負荷ショックの繰り返し操作がメタン発酵の微生物叢に及ぼす影響を調べ、微生物群集組成や代謝経路、微生物ネットワークの変化を明らかにしました。さらに、負荷ショックに対してレジリエントな微生物叢を構築する手法を確立しました。

過剰繁茂水草の高効率メタン発酵

過剰繫茂した水草のメタン発酵

過剰に繁茂した水草による社会問題が、ここ20年ほど国内外で深刻化しており、生態系のかく乱、悪臭、漁業障害、観光価値の低下やレジャー利用の不適化などの影響が大きくなっています。私たちは琵琶湖をフィールドとして、水草バイオマスのメタン発酵による資源化を起点とした里湖循環型社会の構築について研究開発しました。生態学や陸水学の研究グループとの共同研究で、水域生態系を健全に保つための水草管理基準(=適正な水草刈り取り量の策定)と、除去した水草バイオマスをメタン発酵と藻類生産に有効利用する基盤技術の確立を手掛けました。水草からのメタン生成量の決定要因や、水草の易分解画分(=細胞質等)と難分解画分(=細胞壁)を異なる滞留時間でメタン発酵する新規装置による水草分解促進効果、難分解性の水草のリグニンをアルカリ加水分解して易分解化することによるメタン収量の増加、前処理副生物である溶存リグニンに対するメタン発酵微生物の阻害と馴化を明らかにしました。

その他共同研究等で実施した研究課題

  • コンポスト化の加速化を目的とした有用微生物の探索・接種・動態解析 

  • 有機汚泥から回収した栄養塩を用いた微細藻類の高効率培養 

  • 微細藻類による有機性排水の栄養塩除去ならびに藻類バイオマス生産の高効率化 

  • 油脂含有排水のメタン発酵における油脂分解細菌の探索

  • 金属ナノ粒子の添加による水素発酵微生物の高活性化

  • 農作物非可食部を原料としたバイオエタノール発酵における前処理副生物の除去

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